カタカナのつくり手とはこび手「背伸びをしない、自分らしくいられるシャツ」
「AIR ROOM PRODUCTSさんのシャツのイベントがきまりました!」
バイヤーの平岡さんがキラキラとした目で私に話してくれたのが、今年の春のこと。
実は、AIR ROOM PRODUCTSのイベントは、2016年にカタカナで開催して以来なので5年ぶり。念願の開催なのです。
「この前、近所のお店でイベントをやっていたので、行ってきました!
ふらっと偶然、お店に立ち寄った感じの若い男性が、試着室から出てきて、すごく笑顔だったの!」と聞いて、
AIR ROOM PRODUCTSのシャツには、どんな魔法があるの!?とこのエピソードがずっと忘れられず、とても、とても気になっていました。
今年の7月に、AIR ROOM PRODUCTS のアトリエに伺いました。
アトリエは、恵比寿駅から渋谷 方面に歩いて徒歩10分ほど。
明治通り沿いのビルの3階の一室に、アトリエはあります。
高まる気持ちで階段を上り、部屋の前に到着すると、
AIR ROOM PRODUCTS のデザイナー、カモさんたちがあたたかく出迎えてくださいました。
初めてきたのに、心地よさを感じるやわらかなで朗らかな雰囲気のアトリエ。
見晴らしのいい窓からは青々とした木々が見え、室内にいながらも四季が感じられます。
春には、満開の桜が綺麗にみえるのだとか。
AIR ROOM PRODUCTS は、「普通の毎日のためのシャツ」をご夫婦で手掛けているブランドです。
元々は、同じアパレルで企画や生産管理をされていたお二人。
その後、クニマサさんは会社を辞めて、アパレルやインテリアブランドをクライアントに持った
広告代理店で制作の仕事にかかわり、デザイン事務所を立ち上げます。
一方、佳代さんは出産を機にフリーランスに。
仕事との関わり方が変わり、お二人はファッションを巡る状況について残念に思う事がありました。
それは「せっかくお気に入りの洋服に出会えても、翌年には同じものを買うことができない」こと。
とてももどかしい気持ちになったそうです。
新しいものをつくり続けるのではなく「変わらない‘’ベーシック‘’なものを作りたい」と誕生したのが、「AIR ROOM PRODUCTS」なのです。
“変わらずに継続する”ものづくりの姿勢に、AIR ROOM PRODUCTS のシャツの良さが詰まっているような気がしました。
つい手を伸ばしたくなる着心地、肩肘張らないシルエット、なんか良いよねと思えるつくり、
洗いざらしで、T シャツのように気軽に着ることができるシャツ。
だから、時代が変わり、年齢を積み重ねても、AIR ROOM PRODUCTS のシャツは、ずっと着たくなる魅力があります。
こうしてはじまったAIR ROOM PRODUCTS のものづくり。
ブランドとしての第一作目が、こちらのスタンダードシャツです。
AIR ROOM PRODUCTS のあらゆるシャツは、このスタンダードシャツのデザインを基本に、つくられています。
「時代やそのときの気分によって、形を少しずつ印象が変わらない範囲で調整しています。」とカモさんたち。
時代によって着る人の体型も変わっているらしく、実際にお客様が着た様子を見て、細かなところを調節しているのだそう。
シャツのシリーズは、01からはじまり、今ではなんと30 型以上になります。
スタンダードシャツから、新しいシャツが生まれていく…
カタログは、まるで家系図のようです。
ブランドの核となるキホンのかたちが誕生するまでは、さぞかし大変だったのではとお二人にきくと
「イメージが元々できていたので、悩み抜いてというわけではないのです…」となんだか申し訳なさそうに答えてくださいました。
シャツを着る人は特定の誰かではなく、身近にいる人をイメージにしながら「自分たちが着たいと思う形」を目指していたので、迷いは無かったのだそう。
着る人の日常にやさしく溶け込むデザインは、こうしたカモさんの人に寄り添うものづくりから誕生していたのです。
二人のシャツのイメージは、衿の形など細かな箇所を最終的にパタンナーさんと形にしていきます。
パタンナーさんは、元々同じアパレルブランドに勤めていて、ブランドスタートより前からのお付き合いなのだそう。
深く信頼しあえるとくべつな関係性に、とても胸が熱くなりました。
そして、AIR ROOM PRODUCTS のシャツの核となるのが、生地と丁寧な縫製。
スタンダードシャツは、以前は仕入れた生地を使用していましたが、なんととあるタイミングで廃盤になってしまいます。
そんな時「自分たちのイメージ通りの生地で、変わらないシャツがつくれたら…」と思っていた矢先に、
たまたまご縁が繋がり、シャツのためのオリジナルの生地が作れるようになったのです。
「実際に手に取り、自分たちの目で価値が感じられる素材を選んでいる。」というカモさん。
オリジナルの生地は、糸、糸の本数(密度)、そして仕上げ方までカモさん自らがひとつひとつ選んでいるのだそう。
仕上げ方とは…。私はこのお話を聞くまで、生地の生産に仕上げの工程があることを知りませんでした…。
気になるシャツの仕上げ方を聞いてみると。
「せっかく、オーガニックの糸を使用しているのだからと、仕上げにも生地や環境に負荷の少ない方法でお願い
しています。
生地の「晒し」の工程は塩素を使用することが多いのですが、オリジナルの生地は水素での晒しを指定しています。
また薬品で滑らかにする工程は敢えて省いています。」とカモさんがやさしく教えてくださいました。
そして出来上がった生地は、シャツ専門の縫製工場の職人さんが、丁寧に縫い上げ、最後に水洗いで天日干しし
たのち、ようやく一枚のシャツが出来上がります。
時間と手間をかけて職人さんがつくる“いい生地”“いい縫製”でつくられたシャツは、
肌やからだに気持ちよく馴染み、軽やかで、やさしい風合い。
なので、袖に手に通した時の心地よさが違います。
着心地がいいものは、「ずっと着ていたくなる」。
AIR ROOM PRODUCTS のシャツの醍醐味です。
お話を伺ったあと、窓の前に凛とした佇まいで並ぶシャツたちを最後にじっくりと見させていただきました。
ずらりと並ぶシャツの中でも、私達を特に魅了したのがこちらの「シャツジャケット」。
A ラインの立体的なシルエットが特徴的で、高さのある衿、美しい貝ボタン、やわらかくもハリのある生地、どこかクラシックな雰囲気に一目ボレ。
使用している生地は、ジーンズの産地で有名な岡山県児島にある機屋さんでつくられています。
熟練の職人さんが、旧式のシャトル織機でゆっくりと織り上げたタッサーという生地は、強度が高くなめらかで、心地の良い風合いが特徴。
丈夫さと美しさを兼ね備えた一枚です。
そして、もうひとつ。
私がとっても気になったのが、AIR ROOM PRODUCTS のなかで一番新しいカタチの「アトリエシャツ」。
柔らかで軽いコットンのポプリン生地を、たっぷり使ったチュニック丈の白シャツです。
オーバーサイズで、ゆるりと着れる感じが、絶対可愛い…
フラットなえりも素敵です。
ボタンを留めたり、外したり羽織ったりと、着方を自由に楽しめます。
シンプルで、軽やかな空気感を纏ったAIR ROOM PRODUCTS のシャツたち。
シーズンごとに新しいものをつくりつづけている一般的なアパレルブランドとは、正反対の道をいく
着る人のことを考えて生まれた「変わらないシャツ」だからこそ、流行りにとらわれず、性別や年代を超えて多くの人に愛されるのだと思いました。
「お気に入りのマグカップやダイアリーなどの日用品のように愛用していただけたらうれしい。」というお二人。
何気ない毎日のためのシャツは、間違いなく着る人にとって大切な日用品として、かけがえのない相棒になって
いきます。
そしてまた新しく迎えたくなった時にも変わらずに買える。
この安心感は、他にないものだと思います。
すべてにおいて、人に寄り添ったやさしいシャツのことを私はとても愛おしく感じました。
AIR ROOM PRODUCTS のお二人、ありがとうございました。