さがしモノ旅 和歌山 kitt編「日本の良いものが消えていく」
「なんとかこの商品を継続できるように奔走したいと思います!でも、カタカナさんでやってくれるようなイベントは、これで最後になるかもしれません」
その春のイベントは、在庫が潤沢では無かったにもかかわらず、今までで一番多くのお客様にお買い上げいただきました。
いつかまた、あのフワフワなスウェットを紹介したいね。
有田さんと約束してイベントは終了しました。
数か月たったある日。有田さんからのメールをあけると、
「見て欲しいモノがあります」
商談は以前と同じ、店の隣のガレージです。
有田さんのカバンから出てきたのは、2枚のスウェット。
「以前のモノと比べて下さい」
僕は目を閉じて、スウェットを手に取ります。
利き酒ならぬ、利きスウェット。
「んんっ?」どちらも以前のフワフワなスエットと同じ感触なのです。
目を開けて、生地をよく見るとほんのり裏毛の色がちがいました。その他は本当に今までのモノと変わらない。
なんで、ここまでクオリティの高いモノが出来たのだろう?
有田さんを見ると、安堵した表情のあとにニヤリと笑いました。
「実は、このスウェットは糸も大事だったのですが、このフワフワもっちり感を出すには、編みが一番大事だったのです」
今まで特殊な糸から生まれるスウェットと思っていたのですが、
なんと!このスウェットは特別な編立によって出来上がっていたのか!!
【カギを握っていていた人】
有田さんの横で、爽やかに笑う人がいます。
商談を同席してくれている、和歌山のメリヤス工場の社長の坂本さん。
「この風合いは、うちの会社の工場長が何年もかけて作り上げた生地なのです」
「世界中でこの生地を作れるのはうちだけです!」
あまり表舞台には出ませんが、世界的に有名なブランドの服も、この会社の生地を使っているのだそうです。
おぉ~!すごい。あのスウェットが完全復活するのです。
僕は興奮を抑えながら、次回のイベントの商談モードに切り替えました。
これから生産すると納期は?
前回の納品数量よりも多く生産する事は?
色は何色展開にしますか?
商品のデザインはどうする?
たたみかけるように、有田さんと坂本さんに質問すると、少しずつ顔が曇りはじめました。
「坂本社長の会社はメリヤス工場なので、生地はたくさん作っているのですが、製品(洋服)を自社ブランドとして扱ったことはないのです」
なので、最初は少しずつ生産数を抑えて、色数も少なくして、もし売れなくても在庫のロスを極力少なくしたいというのが、彼らの希望でした。
う~ん、、もったいない。
せっかく日本の誇る良いスウェットが復活することが出来そうなのに、多くの人に紹介出来ないなんて、、、
みなさんお忘れかもしれませんが、僕たちはお店の隣のガレージに置かれているテーブルで商談をしています。
そんな時です。
いちど目の前を通りすぎた自転車が、目の前でクルリとUターンして、ご婦人がテーブルに置かれているスウェットを指さし。
「あっ!このスウェットいつ再販売するの?前に買って良かったからまた欲しいのよ」
有田さんも、坂本さんもポカンと口をあけて驚いていました。
ぼくは笑いをこらえながら「この人たちが、たくさん作ってくれるので待っていて下さいね」と伝えると、満足そうな顔で颯爽と立ち去っていかれました。
お客様の生きた声を聞いた作り手たちの心に、炎がポッとついたのを見逃しません。
「さあ!頑張って作ってください。僕たちは心をこめてお客様に紹介します。」
いまだに坂本さんと会うと、あの自転車は仕込みでしょ?と聞かれます。
嘘みたいな、本当の話です。
さてさて、ここまで聞いて僕たちが気になるのは、どんな所で作られているのか?
それを探りに、「さがしモノの旅」に和歌山に行きました。
続く…
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